韓経:【コラム】「他人の苦痛を理解できない社会」=韓国

  • 2019年6月4日

「他人の苦痛を理解できない社会」=韓国

仏教の経典『涅槃経』には「盲人摸象」の寓話が出てくる。「群盲象をなでる」ということわざの由来だ。認知できる部分を全体と考える人間の愚かさを遠回しに言った言葉だ。このように制限された経験と学習のせいで人間の認知能力と判断力は偏狭で歪曲されるのが常だ。

こうした状況で社会対立を刺激する偏見と嫌悪が、男女、地域、世代、階層間の隙間に入り込みあちこちに傷を残している。インターネット空間では男性嫌悪と女性嫌悪を刺激する「男嫌」と「女嫌」が大手を振るい、学生と高齢者を見下す「給食虫」「年金虫」などの暴言が乱舞している。ドイツのジャーナリスト、カロリン・エムケが『憎しみに抗って』で明らかにした「重症嫌悪症」が蔓延した社会の姿だ。

絶えることのない韓国の政治家の暴言は社会対立を最大化させる代表的な事例だ。暴言は与野党と進歩・保守を問わない。自由韓国党の羅卿ウォン(ナ・ギョンウォン)院内代表が先月中旬に文在寅(ムン・ジェイン)支持者を見下した発言で議論の中心に立ってから数日後に同党の金鉉我(キム・ヒョンア)議員は文大統領をハンセン病患者に例えて波紋を起こした。相手の政党や党指導部に対する不適切な非難もはばからない。「泥棒」(李海チャン・共に民主党代表)、「サイコパス」(李貞味・正義党代表)という言葉も出てきた。

暴言議論はついにハンガリーでの遊覧船事故にまで広がった。自由韓国党のミン・ギョンウク報道官のいわゆる「ゴールデンタイム3分」発言に政界の集中砲火があふれた。ミン報道官は「『速度』を強調する文大統領の対応を批判する意見を代弁しただけ」と釈明したが生半可な用語使用で非難を自ら招いた。

政界の旧態は小説家の金薫(キム・フン)が最近指摘した「他人の苦痛を理解できない社会」の典型的な姿だ。彼は現在の世相に対し、「他人と適当な距離を維持し、他人の苦痛を理解する能力が全くない」と喝破した。そのため「毎日言い争い、暴言、悪口で明け暮れる社会になった」と嘆いた。

だが度を超えた政界の暴言は共感能力不足だけに起因するのではないだろう。見たいものだけ見て、信じたいものだけ信じる政界の確証バイアスは問題だが、多分に「計算された挑発」という指摘は少なくない。政界が露骨に「自分側」と「相手側」を分けているからだ。来年4月の国会議員総選挙を控え支持層の結束を引き出すという意図が隠れていると分析される。嫌悪で勢力を拡大する後進的な政治文化は、落ちるところまで落ちた韓国の社会共感能力を枯渇させ、また別の敵対感を量産する悪循環を生むだけだ。

キム・テチョル/論説委員